いつもの放課後ファミレスWデート。目の前の恥ずかしいカップル、もとい友達カップルは、これまたいつものごとき振る舞いをしてくれた。
未央が言う。
「私は丑の刻参り派よ!」
孝明が言う。
「俺は不幸の手紙派だ!」
どんな喧嘩だ。
そんな派閥ねーよと内心でツッコミながら、今となっては見慣れた光景を前に私はポテトを食す。互いに三か月以上経ったカップルのデートなんてこんなものだ。いや、この喧嘩内容はどうかと思うが、ベッタベタな甘さがないという意味で。
彼氏の啓太と私は並んでポテトをつまみながら、テーブルの向こうで言い争う二人を観察。唐突に、未央がばんっと机を叩いた。
「不幸の手紙は一通書いてはい終わり。なんて単純、ひねりがないじゃないの」
「…………」
衝撃で、私の指が赤い液体に浸かる。どちらによる衝撃かはご想像にお任せします。
ケチャップに染まった私の指などお構いなしに、未央は言いつのる。
「それに比べて丑の刻参りは眠さに耐え、人の目を避け、山越え谷越えの苦労があるのよ! そういう制約があるこそ効果があるんじゃない」
そこまでするな。
孝明も負けじと言い返す。
「何を言う。手紙は書いた後が大変なんだぞ!? 回りに回って自分のところに来るんじゃないかという恐怖がっ」
だからそこまでするな。
もちろん内心の声は届かない。指を拭ってもらってさあベリージュースを飲もうとした私に、未央は第二撃を仕掛けてくれた。
「別にあたしMじゃないもの。このM」
Mとか昼間のしかもファミレスで大きな声で言うんじゃない、女子高生。
噴き出しさなかった自分を讃え、とりあえずグラスを置く。
「違うっ。俺はMである前にSMだっ」
「んぐっ!?」
あんまりな告白に、艶を誇るおいしそうなミニトマトが一瞬にして凶器になった。背中をさすられ店員には同情の目を向けられている私と、そこのカップルどっちが恥ずかしいだろう。
未央を超える問題発言に対して静かにどよめく周りの客に、私は内心うんうんと頷きながら、注がれた水で復活する。何事もなかったかのように、運ばれてきたケーキへぷすりとフォークをつきたてた。決して私は恥ずかしくない。
「あんた何恥ずかしいこと言ってるのよ」
「お前が先に言ったんだろ!?」
むしろお前らの存在が恥ずかしい。
もはや要自主規制な二人の会話は無視無視無視。目の前のテーブルを境界線にして、私は赤の他人と決め込んだ。
「ねえ、なんで孝明と友達やってるの?」
啓太に訊ねてみる。
「お前、人のこと言えるか?」
そういえばそうだった。
口の端についたクリームを指で拭うと、啓太は立ち上がる。
「帰るか」
同感だった。
ファミレスをあとにして、私はぼやく。
「なんであの恥ずかしいカップルと一緒にデートしてるんだっけ」
「友達だからだろ。多分」
友達って言葉は偉大だな、と思った。
「あれ、いつの間に帰ったんだあいつら」
孝明は、机に置かれた小銭を目に留めて首を傾げた。
立ち上がっていた未央は、どさりと座って返す。
「あんたがバカなこと主張してるとき」
「気づいてたなら一声かけろよ」
「だって声かけられる雰囲気じゃなかったし。いつものことだけど」
「あー……」
呆れを含んだ彼女の言に、孝明は納得したような声音を漏らした。
その口元に、未央は溶けかけたアイスをのせたスプーンを運んでみる。
「なんだよ急に気持ち悪い」
顔を引いて拒否をした彼氏に、未央は真顔で頷いた。
「うん、あたしもあんたが食べたらヒくわ」
「じゃあすんな」
満更でもなさそうな顔をしつつも、孝明は鬱陶しげに手を振る。未央はスプーンを戻して軽く振った。
「いやだって、啓太の友達だし」
それには返さず、孝明は指摘する。
「たれてる、たれてる」
スプーンを伝ってたれたアイスで手を汚した未央に、孝明は布巾を投げてやった。
「俺はあんなマネできねぇよ。何、お前して貰いたいの?」
手を拭う未央の腕に冗談で手を伸ばす孝明だが、未央は体ごと手を引く。
「冗談ヘンタイ。舐めたら蹴り入れるから」
「だよな」
頷いた彼氏に頷き返し、グラスに手を伸ばした未央は渇いた喉を潤す。
それをぼーっと見ていた孝明は、とんでもないことを言いだした。
「なあ、俺が飲ませてやったらお前どうする?」
「ぶっ」
げっほごっほとむせる彼女に、孝明は一人頷く。
「やっぱないよなぁ。しかも人前で」
「ないでしょ、フツー。店員ガン見してたもん」
どちらともなく主がいなくなった席を見た。
「あーいうのをバカップルっていうんだよな」
「なんであんた啓太と友達やってるの?」
未央は訊いてみる。
「お前人のこと言えねーだろ」
そういえばそうだった。
「あのコの最近の悩みなんだと思う? 最近マンネリ化してラブ度が下がってる、だって」
衝撃の事実に、今度は孝明が吹く。
「げっ……あれで?」
「あれで」
一緒にいて恥ずかしいよね、と未央はぼやいた。